はじめに
「訪問看護って…何かしてくれるわけでもないし、ただ来てるだけでしょ?」
「30分いて、ちょっと話して帰るだけなら、必要あるの?」
精神科訪問看護の中には、“何もしていないように見える時間”がたくさんあります。
しかし、その“見えない支援”こそが、ご本人の心を支えているのです。
この記事では、れむりあが実践している「ただ訪問すること」の意味、
その中にある深い価値、そして“目に見えない支援”がもたらす変化について丁寧にお伝えします。
「何もしていない」に見える“30分”に何が起きているのか
れむりあの訪問時間は1回30分。
その時間の中で、私たちは時に、
- お茶を飲むだけ
- 少しだけ話すだけ
- 一緒にテレビを見る
- ただ横に座る
……そんな訪問もあります。
けれど、それは**“無意味な時間”では決してありません。**
そもそも、精神科訪問看護の目的は「心の安定」です
精神疾患を持つ方にとって、
日常生活の中で“誰かが来てくれること”は、生活のリズムと安心の支柱になります。
たとえば──
- 「火曜日の10時に来てくれる」→ 時間の意識が持てる
- 「この人に話せる」→ 感情の調整がしやすくなる
- 「特に話すことがなくても大丈夫」→ 存在そのものの安心感
私たちは、“関係そのものが支援”になる世界で仕事をしています。
ご本人の視点に立ってみると…
「ただ来てくれているだけ」が、
実はその人にとって、次のような意味を持っていることがあります。
🔹 1. 「自分は見捨てられていない」と感じる
長く孤立していた方、拒絶や虐待の経験がある方にとって、
“変わらず来てくれる人”の存在は、世界とのつながりそのものです。
🔹 2. 「話したくなったら話せる」という安心感
話すことがない日も、ただ「いてくれるだけ」で、
“話す準備が整うまで”の時間を一緒に過ごしてくれる人として受け入れられていきます。
🔹 3. 「変化に気づいてくれる人」がいる
訪問看護師は、表情や動作、会話の微妙な変化を観察し、
ご本人も気づいていない“心と体のズレ”を察知して、必要な情報を関係者と共有します。
🌱「なんとなく落ち着かない」「ちょっと元気がない」
そんな“違和感”を拾えるのは、日々の関係性の中で生まれる感性です。
実例:ほとんど話さなかったDさんの変化
Dさん(30代・男性)は、統合失調症の再発後、自室にこもりがち。
訪問時も「来なくていい」と言いつつ、顔だけは出す状態が続いていました。
スタッフは、
- 無理に話を引き出さず
- 週2回、決まった時間に訪問を継続
- メモ帳に一言メッセージだけ残す日も
3ヶ月後、Dさんは「……お茶ぐらい出そうか」と言い、
半年後には「今日、こんなことがあった」と話してくれるように。
今では、スタッフと将来の話を笑ってできるほどに回復しています。
何も起きないように見える時間が、“何かが育つ時間”になっていたのです。
訪問看護の“見えない力”は5つある
✔ 1. 信頼関係の継続
- 続けて来てくれること
- 約束を守ること
- 否定せず、聴いてくれること
→ これらが**再発予防の“心の免疫力”**になります。
✔ 2. 生活リズムの補助
- 「火曜日と金曜日は訪問」→ 起きる理由ができる
- 前日から「来るから部屋を片付けよう」→ 動機づけに
✔ 3. 医療者との橋渡し
- 小さな不調を医師に伝える
- 受診前の不安を和らげる
- 本人が言えないことを“翻訳”する
✔ 4. ストレスや不安の“緩衝材”になる
- 環境や人間関係のストレスを“ワンクッション”で受け止める
- 「直接家族には言えないこと」を訪問看護師には言える
✔ 5. 自己肯定感の回復
- 「また来てくれた」=「自分は大切にされている」
- 「ありのままでいいんだ」と感じられる
ご家族・福祉職の皆さまへ
「ただ来て話してるだけ」「意味あるの?」と感じることもあるかもしれません。
でも、その“なんでもないような時間”こそが、
支援のなかで一番深く、長く効いてくることがあるのです。
人は、「安心」や「信頼」を感じることで、
ようやく“自分らしく生きる準備”が整っていきます。
よくある質問(Q&A)
Q. 本人が何も話さない場合、訪問看護は意味がありますか?
→ あります。話さなくても、スタッフの存在自体が「安全の象徴」となることがあります。
Q. 訪問回数を減らした方が“自立”につながるのでは?
→ 減らすことが自立とは限りません。“必要な支援を受けられる力”も自立のひとつです。
Q. 他人から見て“成果”が見えない訪問に、意味はあるの?
→ 成果とは「変化」だけではありません。“安定していること”そのものが大きな成果です。
おわりに
「ただ来てるだけじゃん」
その30分が、
誰かにとって**“崩れない生活の柱”**になっている。
「何もしないように見える支援」には、
“そこにいるだけでいい”という、究極の人間理解と寄り添いが詰まっています。
精神科訪問看護ステーションれむりあでは、
これからも、ただ静かに、優しく、
その人の“今日の30分”に寄り添い続けます。


